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医療従事者の8割近くが“離職”検討…「賃金に不満」「専門資格取得でも仕事が増えるだけ」 自治労が独自調査報告ン

「77%が離職を検討している」――。 全日本自治団体労働組合(自治労)は加盟する都道府県立病院など全国の公立・公的医療機関で働く看護師ら医療従事者に対しWEBアンケートを実施。3月5日、東京都内で会見を開き、結果を報告した。

賃金低迷やそれに伴う人手不足、カスタマーハラスメントによる精神的疲弊など、地域医療の崩壊にもつながりかねない医療現場の深刻な状況が明らかになった。(榎園哲哉)

地域医療支える全国の1万人から回答

アンケートの数字が深刻な状況を改めて浮き彫りにした。

自治労は、コロナ後の補助金廃止や物価高騰により医療機関の経営が悪化していること、人員不足が常態化していることなどを受け、医療現場の実態を把握するために昨年11月から今年1月にかけて、インターネット上で調査を行った。

質問数はおよそ10問(自由回答を含む)。47都道府県の各医療機関・事業所で働く1万434人から回答が寄せられた。

回答の男女別内訳は女性76%、男性23%、答えたくない1%。年代内訳は40代が31%、次いで30代24%、20代21%、50代20%など。職種別内訳は看護師が61.3%、次いで臨床検査技師5.1%、事務系職員4.7%、理学療法士4.0%、薬剤師3.6%など。

会見では、自治労の平山春樹衛生医療局長がフリップ(絵図)も用いながら、回答から見える“状況”を語った。

「現在の職場を辞めたいと思っていますか?」という最初の質問に対する回答結果(割合)は、「常に思う(13%)」「しばしば思う(22%)」「たまに思う(42%)」で、合わせると77%もの医療従事者が離職を検討していることがわかった。

コロナ禍の下で行った3年前(2021年11月~22年1月)の69%より、およそ10%も上昇している。

「辞めたいと思う理由(複数回答)」は、「業務が多忙(回答数3726)」「賃金に不満(同2291)」「人手不足(2031)」など。

「専門資格を取得しても賃金に反映されない」

公定の社会保障関係費(診療報酬、介護報酬等)に頼る財源不足は深刻だ。

医療従事者が辞めたいと思う理由の大きな要因にもなっている賃金。「現在の収入に満足しているか?」という質問には、「不満(20%)」「やや不満(47%)」と、不満を表明した回答が67%となった。

その理由(複数回答)については、「物価上昇に比べ賃金が上がっていない(回答数5705)」がもっとも多かった。

不満を感じている医療従事者の職種別割合は、臨床工学技士が74%、次いで看護師73%、助産師71%と続く。

臨床工学技士が多いことについて平山局長は、「医師の業務量軽減のために、医師の仕事の一部(手術器械の操作など)を担う『タスクシフトシェア』が増えているのに対して給料が上がっていないこと、同シェアの下で緊急呼び出しに備えていても手当が出ていないことなどが考えられる」と理由を挙げた。

また、自由回答では「専門資格を取得しても仕事が増えるだけで賃金に反映されない」という声も寄せられ、平山局長も「(資格の取得が)キャリアアップにはなるが、収入には反映されない、という声は現場の不満としてかなり聞いている」と語った。

このほか、「若年者の給料は上げるのに、中堅以上の職員はあまり上がらない(賃上げの幅が小さい)」などの回答もあった。

4人に1人がカスハラを経験している

勤務環境の悪化に患者・利用者、家族らからのカスハラが“追い打ち”をかけている。

「2024年1月以降にカスハラはありましたか?」の質問に対し、「日常的にある(2%)」「時々ある(24%)」と合わせて26%、つまり4人のうち1人が被害を受けたと回答。

「自分はないが職場にはある(34%)」を合わせると、60%の職場でカスハラが存在していることが明らかとなった。

その行為(複数回答)は、「暴言や説教(回答数3787)」が最多で、「大声・罵声・脅迫(土下座の強要)(同2763)」「長時間のクレームや居座り(同1585)」など。さらに、「暴力行為(同1262)」「セクハラ行為(同861)」も見過ごせない。

職種別では、看護師が33%、次いで医療ソーシャルワーカー32%、理学療法士18%と続く。

看護師、理学療法士は身体接触が多いこと、医療ソーシャルワーカーは転院・退院などの話し合いの際にクレームを受けやすいことなどが理由とされた。

自由回答には、「名札を見て『お前の名前を(SNSに)投書する』と脅された」といった声も寄せられた。

こうしたカスハラへの対策について平山局長は、自身が勤務していた病院の例を参考に「以前は顔写真とフルネームが入った名札を使用していたが、(個人情報保護のため)名字だけにする取り組みも行っている」と語った。

また、予防策としては、警察OBへの見守りの依頼、啓発ポスターの掲示、電話の録音(電話でのクレームを抑制する)などを挙げた。

医療業界に限らず全業種的に対応が迫られるカスハラ。東京都は4月1日から、全国で初めて「カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行する。

「地域医療が維持できず、崩壊につながる」

アンケート調査の結果は、人材流出、診療体制の縮小と救急対応の困難、さらには地域医療の崩壊まで予想させた。

自治労の山﨑幸治副中央執行委員長も「このままでは、地域の公立・公的医療機関の存続すら危ぶまれる。地域の活性化も失われる」と危機感を募らせた。

地域の医療崩壊を防ぐために、自治労では今後も①医療に対する財源確保、②医療従事者の人員確保と処遇改善、③カスハラ対策の強化、の3点に対し取り組みを行っていくという。

■榎園哲哉
1965年鹿児島県鹿児島市生まれ。私立大学を中退後、中央大学法学部通信教育課程を6年かけ卒業。東京タイムズ社、鹿児島新報社東京支社などでの勤務を経てフリーランスの編集記者・ライターとして独立。防衛ホーム新聞社(自衛隊専門紙発行)などで執筆、武道経験を生かし士道をテーマにした著書刊行も進めている。

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