富山県射水市が「イミズスタン」と呼ばれる理由——パキスタン人中古車ビジネスの隆盛と共生の現実
富山県射水(いみず)市を車で走ると、次々と目に入る「Used Car」の看板。そこには、日本に約2万人いるパキスタン人のうち、多くが関わる中古車販売業の光景が広がっています。
なかでも、巨大な輸出港を持つ射水市には528人のパキスタン人が暮らし、一大コミュニティを形成。その規模の大きさから、地元ではこの地域を「イミズスタン」と呼ぶこともあるほどです。しかし、ここまでの道のりは決して平坦ではありませんでした。
地域との摩擦と共生への歩み
パキスタン人が射水市に移住し始めた1990年代、生活習慣の違いからさまざまなトラブルが発生しました。たとえば、ゴミの分別。パキスタンにはその文化がなく、最初の頃はあちこちにゴミが捨てられていたといいます。
パキスタン人コミュニティのリーダーであるベーラム・ナワブ・アリさん(62歳)は当時を振り返ります。
「パキスタン人を集めて説明会を開き、日本のルールを記したウルドゥー語のパンフレットも配りました。路上駐車や騒音問題もありましたが、そのたびに根気強く説明を続けてきました」
日本語でのあいさつを習慣化し、地元の住民とともに地域パトロールを実施。さらに、2011年の東日本大震災や2024年の能登半島地震では、パキスタン人コミュニティが被災地で炊き出しを行い、カレーを振る舞いました。
こうした努力の積み重ねで、次第に地域社会との関係が築かれていきました。ベーラムさんは、「見た目は外国人だが、心は日本人です」と語ります。しかし、それでも解決できない問題があるといいます。
努力では解決できない壁
「私たちの中には永住権を持つ人もいますが、選挙権はありません。子どもたちは日本の大学を卒業しても、就職の際に外国人であることが不利に働くことが多い。どれだけ努力しても、外国人扱いされてしまうのです」
この現実に直面し、日本を離れる若者も少なくありません。ベーラムさんは「日本人が悪いのではなく、システムの問題だ」と指摘します。せっかく育った優秀な人材が、制度の壁によって海外へ流出してしまうのです。
文化の違いが生む課題——「土葬問題」
地域住民にとっても、共生には課題が残ります。射水市で「地域の安全と安心を考える会」の代表を務める大森利昭さんは、墓地問題について懸念を示します。
「ムスリムは土葬を希望します。しかし、事前説明もないまま墓地用に土地を購入し、住民との間でトラブルになった例もあります。宗教の問題には警察や行政も介入しにくく、地域住民が不安を抱えるケースが増えています」
東京などの大都市と違い、地方ではこうした文化の違いを受け入れる体制が整っていないのが現状です。
「イミズスタン」の未来——共生への道
約30年にわたり、パキスタン人と日本人がともに暮らしてきた射水市。しかし、「イミズスタン」は、完全な共生にはまだ至っていません。
外国人コミュニティが増えるにつれ、他の自治体でも同様の課題が浮上しています。「共生」は理想的な言葉ですが、実際には文化、宗教、制度の壁が立ちはだかります。多様な価値観を受け入れ、より良い共生社会を築くためには、行政、地域住民、そして外国人コミュニティがともに歩み寄ることが必要不可欠です。
30年の歴史を持つ「イミズスタン」。この先、日本の多文化共生のモデルケースとなることができるのでしょうか?
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