華やかな着物に艶やかな化粧——京都の舞妓は日本の伝統文化の象徴として世界中から憧れを集めています。しかしその美しい世界の裏側には、長年語られることのなかった深刻な問題が潜んでいました。2022年6月、元舞妓・桐貴清羽さん（25）がSNSで発信した体験談は、日本社会に大きな衝撃を与えました。

「初めてのお座敷で未成年だった私にお酒を強要され、拒否すると『空気を読め』と睨まれました」と桐貴さんは当時を振り返ります。さらに驚くべきことに、「お風呂入りと呼ばれる混浴習慣の中で性的暴行を受けたり、妊娠させられたりした仲間もいた」と明かします。

花街には「旦那さん制度」という慣習も存在します。「私の場合、3人の候補者がいて、置屋からは3000万～5000万円という金額を提示されました」と桐貴さん。表向きは金銭的支援関係と言われていますが、「実際にはそれ以上の関係を求められるケースが多い」とのことです。

告発から2年半経った現在でも状況は変わっていないといいます。「18歳未満の深夜労働規制は強化されましたが、飲酒強要やセクシャルハラスメントの問題は依然として残っています」。桐貴さん自身も告発後、「殺してやる」などの脅迫を受けた経験があるそうです。

現在桐貴さんは国連機関とも連携し、伝統文化における人権保護について国際的な働きかけを行っています。「舞妓になる夢自体を否定するつもりはありません。ただ未来の子どもたちには同じ苦しみを味わってほしくない」。彼女の活動を通じて見えてきたのは、「伝統」という名のもとに放置されてきた構造的な課題でした。

この問題に関心を持った漫画家・宮本ぐみ氏との共同作業により2024年1月に出版されたコミックエッセイ『京都花街はこの世の地獄』では、より詳細な体験談が描かれています。芸者文化研究家の中西由紀子氏によれば、「江戸時代からの歴史を持つ花街制度には近代的人権概念との乖離がある」との指摘もあります。

京都市観光協会では近年「舞妓体験ガイドライン」を作成するなど改善に向けた動きも見られます。一方で「実際のお座敷での変化につながっているか疑問」（地元NGO関係者）との声もあり、今後の展開が注目されています。