キャリアブレイク:人生の大切な時間と向き合う選択
「これまで向き合えてこなかった大事なことに取り組む期間」——そう語るのは、キャリアブレイク中の加藤たけしさん。かつて、年収1000万円を超えるキャリアを築いていた彼が、なぜ40歳の節目にして仕事を辞める決断を下したのか。
履歴書の「空白」から「キャリアブレイク」へ
日本では、病気、育児、介護、学業などによる離職・休職期間が「履歴書の空白」として捉えられがちだった。しかし近年、それを「キャリアブレイク」と呼び、前向きに受け止める文化が広まりつつある。
加藤さんもまた、キャリアブレイクを決意した一人だ。IT企業でデジタルマーケティングや広報コンサルタントを経て、文部科学省や東京都庁での要職を歴任。華々しい経歴を築きながらも、彼は一つの疑問を抱えていた——「仕事ばかりの人生で、本当にいいのか?」
「歩みを緩める」決断
妻からの「少し立ち止まってみてもいいんじゃない?」という言葉。20代は「30代になったら」と先延ばしし、30代に入ると仕事と育児の忙しさでますます余裕がなくなった。そして迎えた40歳の誕生日。加藤さんは「今が決断のときだ」と感じ、東京都庁を退職した。
キャリアブレイク中に取り組む「3つの大事なこと」
現在、加藤さんは週の半分ほどのスケジュールを空けながら、PR企業の顧問や講演などのスポット業務をこなしている。その時間を使い、これまで後回しにしてきた「大事なこと」と向き合う日々を送っている。
- 家庭の財務管理忙しさのあまり手をつけられなかった銀行口座の整理、クレジットカードの見直し、将来の資金計画。今では夫婦で定期的に家計を見直すようになった。
- 健康管理健康診断を受けたところ、要検査項目が見つかり、健康の大切さを再認識。自身だけでなく、妻や子ども、親の健康管理にも気を配るようになった。
- 家族との時間例えば、小学校1年生の長男と一緒に毎日将棋会館へ通う時間。仕事優先の生活では得られなかった貴重な家族の時間を楽しんでいる。
人生の優先順位が変わった
キャリアブレイクを通じて、加藤さんの人生観は変わっていった。「人生は有限だからこそ、ライスワーク(お金のための仕事)だけに時間を費やすのは違う」と考えるようになった。
「子どもが夢中になっていることに寄り添うことのほうが、今の自分にとっては大切。たとえ収入が減っても、その時間は守りたい。」
今は子どもとの時間を優先しているが、今後は両親のサポートや夫婦の時間が重要になるかもしれない。だからこそ、「家族のための余白は常に残しておきたい」と考えるようになった。
フルタイムに戻らない新しい働き方
キャリアブレイクが終わった後も、フルタイムに戻るつもりはないという。お金を稼ぐ仕事を週2.5日ほどに抑え、残りの時間を家族や自己投資に充てるスタイルを模索している。
そのための戦略として、加藤さんは「ブルーオーシャンを見つける」ことを意識している。競争の激しい分野ではなく、自分の価値を最大限に発揮できる場を探す。現在は「地方の行政広報」という新たな可能性を模索中だ。
キャリアブレイクは「不安」ではなく「チャンス」
「フルタイムで働かなくても、収入面・キャリア面でやっていけそうな手応えを感じている」と加藤さん。
かつては「たくさん稼がなければ」と思っていたが、将来設計を見直すことでその不安は解消された。家計を見直したことで、「生活コストを抑えれば、収入が減っても暮らしていける」と実感。さらに、中学受験や住宅ローンを考えない選択をしたことで、必要な資金の見通しが立った。
こうして将来の見通しを持てるようになったことで、「お金のために無理して働く必要はない」と思えるようになったのだ。
キャリアブレイクがもたらしたもの
「人生には、仕事以外にも大切なことがある」と気づく期間になったと語る加藤さん。
例えば、家族のルーツを調べたこと。自分のアイデンティティを見つめ直し、人生を豊かにするきっかけにもなった。「仕事だけが人生じゃない。キャリアブレイクは、それを考える大切な時間になった」と振り返る。
もちろん、彼がこうした決断を下せたのは、これまで積み上げてきたキャリアとスキルがあったからこそ。「もし25歳や30歳だったら、踏み出せなかったかもしれない。」そう語る彼の言葉には、キャリアを築いたからこそ得られた自信がにじむ。
「履歴書の空白」は、人生の充実期になる
加藤さんの経験が示すのは、「キャリアブレイク」は決してネガティブなものではなく、「人生で本当に大切なことと向き合う時間」になり得るということ。
「何もしていない期間」ではなく、「人生を豊かにする大事な時間」——。
キャリアブレイクという選択肢が、より多くの人にとってポジティブなものになることを願っている。
現在、病気、育児、介護、学業などを理由にキャリアブレイクを経験した方のインタビューを募集しています。取材にご協力いただける方は、ぜひご連絡ください。
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